「夢つむぐ学校」では、トークイベントやインタビューを通して、「夢」や「やりたいこと」に向き合う人の声に耳を傾ける機会を大切にしています。
今回ゲストにお迎えしたのは、千葉県市原市牛久にあるコーヒースタンド「ushikuni cafe」のオーナー・曽根 晴(はるる)さん。上総牛久駅に併設されたこの店舗では、はるるさんが自ら焙煎したコーヒー豆を使用し、地元の方から観光客までとっておきの一杯を提供しています。
しかし、そんなはるるさんにも挫折の経験があります。かつてキッチンカーの運営でつまずき、またコーヒー業界において最難関とされるQアラビカグレーダーの資格試験では2回不合格に。
失敗を経験しても「やりたいこと」を手放さず、夢に向かって前進を続けるはるるさんのお話から、ポジティブなパワーをもらえるに違いありません。
曽根 晴(そね はるる)さん 千葉県市原市出身。上総牛久駅併設のコーヒースタンド「ushikuni cafe」のオーナー。2023年にコーヒー鑑定士の国際資格「Qアラビカグレーダー」を取得。現在クラウドファンディングにて「カフェオレベース」を販売中。 「ushikuni cafe」の公式サイト / Instagram / X |
「町が客席」をコンセプトに。田舎町の小さなコーヒースタンドのはじまり

――はるるさんが現在オーナーを務めていらっしゃる「ushikuni cafe」について教えてください。
「ushikuni cafe」は千葉県市原市の上総牛久駅に併設されているテイクアウト専門のコーヒースタンドです。「町が客席」をコンセプトとしており、コーヒーはお店の前のベンチ、もしくはすぐ近くの商店街で歩きながら飲んでいただくことが多いです。
もともとの店名は「#牛久にカフェを作りたいんだ」でしたが、私がオーナーとしてお店を引き継ぐにともない、2024年に「ushikuni cafe」としてリニューアルオープンしました。
――そもそもどうしてはるるさんは「#牛久にカフェを作りたいんだ」の運営に関わるようになったのでしょうか?
当時市原市で活動していた地域おこし協力隊の人を知ったのがきっかけでした。
同い年だったこともあり、コンタクトを取った後すぐに意気投合しまして。競合がもはや自動販売機しかないようなのどかな牛久に、カフェをオープンする。そんな話を聞いて「面白そう!」と直感し、立ち上げに協力することにしました。
そうして2020年にオープンしたのが「#牛久にカフェを作りたいんだ」です。この店名には、「いずれ牛久に移住してきた人やカフェの運営に興味をもっている人にお店を引き継いでもらえれば」という想いを込めました。

“本気で頑張れなかった”経験が教えてくれたこと
――以前はるるさんはキッチンカーでのコーヒー販売をしていたとうかがっています。キッチンカー事業を運営してみていかがでしたか?
実は、全然だめでした(苦笑)。
出産を機に「#牛久にカフェを作りたいんだ」から一度身を引き、次はキッチンカー形式でコーヒースタンドに挑戦することにしたんですが、これがまったくうまくいかず……。オープンから1年後に閉店しました。

今思えば、本気で頑張れていなかったんです。キッチンカーを始めるときは、なんとなく「かわいいお店とメニューをつくって、イベントで出店すれば売れるだろう」と甘く考えていて。けれど現実は厳しかった――。
キッチンカーは毎回違う場所に出店するので、その都度お客さんに知ってもらわないといけません。それなのに「(イベントの開催が多い)土日は娘の面倒を見なければいけない」「コロナ禍でイベントに参加する人が少ない」と言い訳ばかり並べて、肝心の集客に力を入れていませんでした。
最終的にはキッチンカーのエンジンが故障したのをきっかけに閉店を決意。正直、どこかでやめ時を探していた部分もあったので、今では「やめる理由を作ってくれてありがとう」とすら思っています。迷いながら続けるよりも、きっぱりと諦められたからこそ次に進めましたね。
コーヒー業界の最難関!2度の不合格の末、手に入れた国際コーヒー鑑定士の資格

――キッチンカー事業から撤退した後にはるるさんが取得された「Qアラビカグレーダー」とはどのような資格なのでしょうか?
スペシャルティコーヒーの鑑定士の国際資格です。コーヒー業界では最も取得が難しいとされていて、現在、日本国内には400名ほどしか有資格者がいません。
試験は筆記1科目と実技19科目で構成されていて、資格を取得するには全科目合格する必要があります。私の場合、1回目の試験で5科目落としてしまい、その後2回再試験を受けてようやく合格しました。
※スペシャルティコーヒー:世界のコーヒーのなかでも、上位数%に入るとされる上質なコーヒー
――お話を聞いているだけで試験の難しさが伝わってきます。はるるさんは試験に向けてどのように準備をされたのでしょうか?
初めての試験のために、娘を家族に預けて1週間の勉強合宿に参加しました。私のわがままを聞いてくれた家族には感謝の気持ちでいっぱいです。

再試験の直前には毎日朝5時から娘が起きるまで自主練に取り組み、その様子を動画に収め、仲間たちに共有していました。今思えば仲間たちは迷惑だったかもしれませんが(笑)。
資格の取得まで一筋縄ではいきませんでしたが、その過程でコーヒーの知識や味わいの基準が身について、大きな自信になりました。挑戦して本当によかったです。
コーヒースタンドに再挑戦!これまでの経験を活かし、次なる夢へ

――2024年から「#牛久にカフェを作りたいんだ」を引き継ぎ、「ushikuni cafe」としてリニューアルオープンさせたはるるさん。カフェを引き継ぐことになった経緯を教えてください。
仲良くしていた当時のオーナーから、「スタッフが立て続けに辞めそうなので、カフェの運営自体をどうしようか悩んでいる」と聞いたんです。ちょうどそのころ、娘にも手がかからなくなって時間に余裕ができたタイミングだったので、再びコーヒースタンドの運営に挑戦することにしました。
――カフェを引き継ぐ際に「また失敗するんじゃないか」という不安はありませんでしたか?
たしかにキッチンカーは大失敗しましたが、不安はなかったですね。良くも悪くも引きずらない性格なので(笑)。とはいえ、当時の反省を活かして、今度は土日に働いてくれるスタッフを探しました。私は土日を娘と過ごし、平日の営業や集客、SNSでのPR活動に集中するようにしています。
成功は時の運やご縁にも左右されますが、失敗は100%自分のせい。でも、失敗したからこそ「こうしてしまうと、うまくいかない」というパターンが見えたんですよね。今は「同じ失敗をしないように」と考えながら運営できています。

――現在はるるさんは新商品の販売に力を入れているとうかがいました。詳しく教えていただけますか?
新しく販売を始めたのは「カフェオレベース」です。牛乳で割るだけで、自宅で簡単に美味しいカフェオレを楽しんでいただけます。
そもそもこの商品を開発したのは、少しでも地元に恩返ししたいと思ったから。一度上京してから牛久に戻ってきたとき、あらためて牛久の良さや温かさを実感したんですよね。
一方で、地域の人口が減り、電車の本数も減っていく現状を目の当たりにして。そこで、「自分にできることで地元を元気にしたい」「誰でも手軽にコーヒーを楽しめて、牛久に興味を持ってもらえるきっかけをつくりたい」と、カフェオレベースを企画しました。
ラベルのカラーは牛久の小湊鉄道を走る電車をイメージしていて、自分用だけでなく、贈り物としてもぴったりな商品です。

――最後に今後はるるさんが挑戦したいことを教えてください。
「ushikuni cafe」を、まずは3店舗つくりたいですね。都内や千葉の人通りの多い場所に出店して、お客さまが牛久の本店に足を運ぶきっかけをつくりたいです。
牛久は季節の移り変わりが楽しめる、ちょっとした観光にぴったりな場所。春には菜の花畑、秋には紅葉、そして小湊鉄道の懐かしいディーゼル車やトロッコ電車も走っています。この地域に訪れる人が増えて、新しい思い出を作ってもらえたら。「ushikuni cafe」がそのきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

(執筆後記)
今回のトークイベントが始まると、たちまちはるるさんのお話に夢中になっていました。一般的にネガティブなイメージを持つ「失敗」という言葉。それが不思議と明るく、軽やかなものに聞こえ、挑戦に対するハードルが大きく下がったように感じます。
成功より失敗のほうが何倍も大切。大人になるにつれて忘れてしまいがちな大切なことをあらためて思い出させてくれる、そんなトークイベントでした。
今後もはるるさんのコーヒーが多くの人に届き、牛久に訪れるきっかけになりますように。
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夢つむぐ学校制作メンバー
執筆:るて
編集:間宮まさかず